静かな5月の森で顔を失った、あの、のっぺらぼうの女の子。傷付いた兵士の摘んだ白い花を見て「汚い」って言った。僕は白痴で、何も分からないから、今日も彼女の顔を探して森を歩く。
彼はいつも苦いコーヒーを飲みながら切株に座っている。彼女の顔を探す僕を見付けると「やあ」と手を振って、面白い話を聞かせてくれる。ある時は冬の公 園で自らが枯れるのを待ち続ける男の話を、ある時は記憶を切り売りしながら暮らす両腕のない女の話を、つい最近は誰も居ない城に住む悲しい男の話をしてく れた。当然彼の話はいつも面白いが、何より彼が話をしている時に鼻をヒクヒクさせる所がとても好きだった。
彼は一通り話をした後、昼寝をすると言ってハンモックで眠り始めた。彼の重さでハンモックは地面スレスレまで落ちている。少ししてイビキが聞こえてきた。愛すべき森の騒音、彼はいつからか肉を食べない。
いきたい。初めて彼女――熊と暮らすのっぺらぼうの女の子が言った言葉だと、のっぺらぼうの女の子と暮らす熊は教えてくれた。彼女を拾った日、フワフワ の毛皮で冷えた体を暖めながら、沢山の話を聞かせたらしい。「ヒクヒクした鼻を見てウィルは笑ったんだ。」そう言う彼の顔はまるで父親の様だった。僕はそ れを少し羨ましいと思う。