[2009.04.12] スウィングキッズ

君は子供の頃なりたかった大人になれたか?

芝がいつまでも続く広大な人工公園に、許されたい人達が長い長い列を作る。その列の先に居るマリア様は慈悲深い眼差しで彼らの頬を撫でる。
幾ばくかの奇跡が彼らの中をすり抜け、煙の様に空へと消えていく。許しを乞う人々はそれをじっと見つめた後、大きな溜め息をついた。

「先生」
「ん、なんだ」
「先生は誰かの為に何かを出来ますか」
「出来ると思うよ」
「間違う事を、許せますか」
「許せると思っている」
「季節の早さについていけますか」
「ついていけるさ」
「先生は私とセックスをしたいと思いますか」
「したいと、思っている」

いくつかの戦争があった。誰も幸せになれない、大きな戦争がいくつもあった。いつまでも冬が続いている様だった。ブリザードが吹き荒れる北の大陸で、百 人の絵描きが死に、千人の羊飼いが海を渡り、三人の花嫁が母になった。そして、ようやく人々は、自分達が触れ合う事を求めているのだと気付いた。

「先生」
「どうした」
「触れ合いたいです」
「誰と?」
「先生と」
「いつ?」
「いま。いま触れ合いたいと思ったから、いま」
「何かを無くしてしまっても?」
「何かを無くしてしまっても」

君は子供の頃なりたかった大人になれたか?たぶん僕はなれなかった。僕は僕が擦り減っていくのをただ見ていただけだからだ。
そして今も、ただただボーっとしながら見ていたのだ。許されたいと願う人々を、一人の少女が母になるのを、触れ合う事を求める人達を。
だから僕は決して許され様としないし、触れ合おうともしない、誰かになろうともしない。

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