街路樹に寄りかかって、僕はヘッドフォンに手を添える。スーパーグラスの曲が終わって、スマッシングパンプキンズが流れ始めた。窮屈な足元を気にしながら終わりなき悲しみに耽る。
左手に枯葉が触れる。僕はそれを慌てて掴むと、口の中へ放り込んだ。僕の体の中でそれが確かに色付くと信じている。排気ガスの匂いで我に帰ると、終わりなき悲しみの中で僕は歩き出した。
ソファに座って甘いコーヒーを飲む時、決まって彼女の肩を思い浮かべる。狭く頼りない肩幅で、自らの体温で溶けてしまいそうなそれを見る度、焦燥に駆ら れていた。彼女はとても消化しきれない失意を抱えていた。僕は決まって気付かないフリをする。その狭い肩幅で誤魔化せない嘘に対して、僕は気付かないフリ をする。
その日もいつも通り彼女と駅に向かった。いつからか常に行動を共にする僕らにとってそれは至極当たり前の日課で、また、日常の代名詞でもあった。
手を繋ぐ事なんて滅多にない僕らは必ず一歩分の距離をとっていた。彼女は一歩左側で目を閉じながら佇んでいた。僕は彼女の青いスニーカーと白線を見ながら、フランスの国旗を思い浮かべていた。
「ねえ。」
目を閉じながら彼女は言う。
「カカト、完全に潰れちゃった。」
背伸びをしてカカトを浮かせてみせる。青いスニーカーはスリッポンの様に、履きやすい形になっていた。
「もう、ダメだね。」
「そうだね、新しいのを…」
と言い掛けた所で電車がホームに近づいてきた。白線の内側に、というアナウンスが流れると、君は空へ踏み出した。玄関から外へ踏み出す様な、本当に軽やか足取りだった。