鍵を見付けて欲しいと願いながら、私はこの鍵穴が開く事で何かが始まる事を恐れていた。
自家製のピクルスは食べ頃になってきた様で、季節の歩みを感じた。そういえばもう、初詣のCMが流れ始めていた。
現在から見て近い未来の事柄を目にする度に、何かに時間を占有されてしまった感覚に陥る。良く良く考えれば、それは無駄に時間を過ごしてきた私の怠慢でしかなくて、何かなんて存在しなかった。
今年の4月に仕事を辞めて、もう半年以上経つ。人間関係も良好、給与も悪くなかったけれど、突然体が動かなくなった。厳密に言うと、左腕が使えなくなったのだ。利き腕を使えなければこの世にあるどんな業務も勤まるはずが無かった。
骨にも神経にも異常はありません、原因はストレスか若しくは。そこまで言われれば私にだって先は解った。『私はあたまがおかしくなった』のだ。自分でそう思ってしまう程私の左腕はぴくりとも動かなかったし、何より私のあたまをおかしくさせたのは、だらんと伸びた左の上腕、二の腕と肩の境の辺りに小さな鍵穴がある事だった。