カラマーゾフのとてもかわいそうな兄弟達へ
いつも思っていたのは私に許しが訪れるかという事だった。ポテトチップスを口に運ぶ。長机に並ぶ大量のジャンクフードは私の質量と控えめな魂を膨らませ、記憶中枢を圧迫する。私は、そのままぷちん、と音を立てて、大事な記憶が弾けるのを期待していた。
テレビでは兵士が懺悔するシーンを延々と流している。
「あなたは沢山の人を殺しました」
「チェスを思い浮かべていました」
「ええ」
「私はチェスの駒で、私はチェス盤の上でゲームをしていると、思っていました」
「だから躊躇わなかったと?」
「わかりません」
私はテレビリモコンのオフに指を乗せながら、彼の今にも泣き出しそうな憔悴しきった顔を見ていた。
もしも懺悔を終え、牧師が優しい言葉をかけたとして、他人に許されて彼の何が変わるんだろうか。生きる事はそんなに簡単で感覚的な物なのだろうか。
私はタバコに火をつけた。これでまた脳細胞が死に絶えると想像すると、まるで断末魔が聴こえる様な気がしていた。それはとても大切な儀式だった。或いは私にとっての懺悔だった。
タバコの刺激によって、許容量を越えたモノが勢いを持って逆流してくる。私はポテトチップスの袋にそれを吐き出した。涙と鼻水が顔を伝う。圧迫された記憶中枢が弛緩していくのを感じた。
「罪を償い、そして忘れなさい、そして神に感謝しながら生きていきなさい」
ああ、はい、牧師さま、ありがとうございます。
そうやってまた忘れる。
神は道を示しても、導きはしない。だから私は忘れる為に質量と控えめな魂を捧げる。そして許される。
胃が裏返っている。それを吸い欠けのタバコで満たした。頭の中のチェスの盤面には沢山の私が居る。私はそれを、一つ一つ奪っていく。最後まで辿りついたら、何が起こるかは、知らない。